大学生は、高校生の頃に比べて「労働」という行為がより身近になります。学費や生活費のためにアルバイトを始める人も多くいますし、就活を通じて社会人になる未来が見えてくる時期でもあります。
そんな大学生のために、労働についての法律をご紹介していきます。働くということは雇う側との間に雇用契約を結ぶということ。契約を交わす上で、様々な法律が関わってきます。
所謂ブラック企業と呼ばれる企業で不当な労働を強いられたり、アルバイトの範囲を超えた要求を迫られたりした場合に、「これはおかしいぞ」と思えるよう知識を身に着けておきましょう。
労働法ってなに?
労働法という法律は存在しませんが、労働に関わる法律全般を「労働法」とまとめて呼んでいます。この労働に関わる法律は非常にたくさんあるのですが、重要なのは3つです。以下の3つは必ず覚えておきましょう。
・労働基準法
・労働組合法
・労働関係調整法
これらは「労働三法」と呼ばれます。労働基準法は義務教育でも学んだ記憶がある大学生も多いのではないでしょうか?でも組合法と関係調整法はあまり馴染みがありませんよね。それぞれ見ていきましょう。
労働基準法について
労働基準法は、労働する上での最低条件を示したものです。もし雇用主と労働契約を結んでしまった後でも、内容が労働基準法に反したものであればその部分の強制力はなくなります。
一番多いケースは労働基準法で定められた最低賃金を下回っていることですね。労働基準法違反となり、最適な基準に置き換えなければなりません。
最低賃金はかなり頻繁に変わりますから注意しましょう。東京都であれば最低賃金は2021年時点で1,013円です。
賃金の他にも、労働基準法で示されている項目はたくさんあります。1日の労働時間・休憩時間・休日について・有給休暇について…などに関するルールが定められています。
自分の自由や権利を確保しながら働くためには、これらの勤務条件は必ず守られなければなりませんよね。
「ここで働きます!」と契約を交わした段階とは違う長時間労働や休日がないなどの実態があれば、この法律を盾に訴えることができます。
労働組合法
次に、労働組合法です。法律の内容の前に労働組合についてお話しなければなりませんね。
労働組合とは、労働者が団結して結成したものです。
なぜ団結する必要があるのかというと、労働者は一人ではどうしても弱い存在だからです。もしも上記の労働基準法に違反している職場で働いているとして、自分ひとりが声を挙げても最悪クビになってしまうだけ、という可能性がありますよね。だから声を挙げずに我慢して劣悪な環境で働こう、違法な現場だけど辞めずにいよう、という人が続出してしまいます。
そんなときに、労働者は皆で力を合わせて雇用主に訴えることができるわけです。これが労働組合です。雇用主も、たった一人が盾ついてきたところで辞めさせるだけで済みますが、働いている人全員を辞めさせることは難しいです。職場が回らなくなってしまいますからね。
これを利用して、労働者が団結して仕事を放棄し雇用主に何かを訴える行為を「ストライキ」と呼びます。
こういった組合の結成を法律で認め、雇用側と対等な交渉ができることを目的とした法律が労働組合法です。労働者が集まろうとするのを阻止したり、団体での交渉を阻んだりすることができないように法律で決められているのです。
労働関係調整法
労働組合法の次は、労働関係調整法です。これは、さきほど挙げたストライキが大きく関わってきます。
ストライキやロックアウトと呼ばれるような「労働争議」が起こった場合に解決を目的とする法律です。もしくはストライキなどが起こらないように未然に防止する予防の目的もあります。
社会生活に大きく関わっているような職場で大規模なストライキが起こってしまうと、社会が回らなくなってしまいますよね。それを雇用主が受け入れず、労働者も納得せず、だと事態は硬直してしまい社会にどんどん影響が出てしまいます。
そういったことを防ぐために、なるべく迅速に労働争議を解決できるよう法律を定めているんですね。
ストライキって本当に起きるの?
ストライキという名前は知っていても、本当に起こっていることなのか知らない人も多いですよね。まずは日本で起こった近年のストライキの事例をご紹介します。
2019年に全国港湾労働者組合連合会が全国的に48時間のストライキを行っています。船の貨物の積み込みなどを行う労働者で、ストライキは平日に行われたため、物流に影響が出ました。
2018年には岡山県南部を主要エリアとするバス会社「両備バス」の労働組合がストライキを行っています。これが面白いのが、はじめはバスの運用自体を放棄したストライキを行う予定だったそうです。しかし、バスの運転手たちは切符の回収だけを放棄したそうです。
このため、乗客は無料でバスに乗車でき通常通り移動ができたため、乗客には影響は出ませんでした。もちろん利益が出ないので会社には損害が出ます。
同じような事例で、2019年に起こった私立正則学園高等学校のストライキがあります。毎朝6時30分から全教師が理事長室に集まる「早朝あいさつ」という制度がある学校で、これによって教師は長時間労働を強いられ、また残業代は支払われていませんでした。これを訴えるために「早朝あいさつ」の時間帯のみにストライキを行っています。
こちらも生徒や授業には直接影響を出さずに訴えた例ですね。教師の一人が欠席なだけでは後ろ指を指されてしまったかもしれませんが、全員が来ない、もう取りやめだと訴えられると問題にせざるをえなくなります。これがストライキです。
ちなみに、世界を見てみるともっともっとたくさんの事例があります。
私は海外旅行でロンドンに行った際に、ストライキで主要な電車が数線止まっていて動いていませんでした。特に政治的な大きな反発があったなどではなく、その日が年末休暇(クリスマス後の休暇)だったために休日を要求した結果だそうです。
周りの乗客は「またか」といった感じで、動いている線に乗り換えたりタクシーを手配したりとしていました。日本でいう人身事故のような対応で、あまりに普通だったことに驚きました。
こういった小規模なストライキは世界を見ると相当数発生しています。日本人の気質としてあまりストライキをし辛いというのがあるかもしれません。
労働法を知って自分を守ろう
ここまでご紹介してきた労働法は、全ての労働者を守る法律です。正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員、アルバイトであっても労働契約を結んでいるため全員が守られるべき労働者です。
大学生の皆さんがアルバイトとして働く際に、もし「アルバイトなんだからこれくらいやってくれ」「アルバイトなんだから残業代はいらないでしょ」などと言われて労働法に違反することがあっても、アルバイトだから正社員だからという区分けは関係なく訴えることができます。
そして労働組合法でご紹介したように、ひとりの力ではどうにもできない状況になったとき、力を合わせてストライキを行うなど労働者が団結して立ち向かう方法もあります。
まずは契約するときに労働基準法を守っている契約内容なのかをチェックすること。そして実際に働き始めても契約時の内容と変わりがないか考えること。もし違反があるならば訴えることができるし、一人で難しければ仲間と協力することができます。
この内容を頭に入れて、不当な労働に晒されないよう自分を守りましょう。